絶滅寸前こだわり商品No.3

 計算尺



先日、テレビで「アポロ13」の映画を放映していた。実話をもとにまさに手に汗をにぎる映画だ。

その中であわてる科学者のショットに、計算尺が登場しているのだ。ハイテクを駆使したNASAに

計算尺が本当に使われているのか甚だ疑問であるが、はすぴーの目には印象的だった。

 

はすぴーは計算尺を中学の時に数学の授業で教わったことがある。えーーと、たしかプレハブ校舎

だったから、中2の時だな。45分の授業で2回か3回だけ習ったような気がする。

もちろん今ではその使い方なんて覚えちゃいないけど、なんか妙な定規の目盛りを先生の言うとおり

スライドさせると「シェー、答えが出たざます」「これが答えだニャロメ」「これでいいのだ」と

赤塚ワールドに入ってしまうくらい驚いた記憶がある。

 

またはすぴーには10歳年上の義兄にいるのだが、兄の話によれば、かつて計算尺は理数系の好きな学生

に人気があってどこの中学にも「計算尺クラブ」が存在していたという。今でいう「パソコンクラブ」

のようなものだったらしい。そして計算尺競技大会や検定が全国レベルで開催されていたそうだ。

たぶん電卓が登場するまで、数学者や設計技術者たちの間では、計算尺は重要なアイテムであった

ことは間違いないだろうが、この計算尺は現在でも販売されているのだろうか・・・?

 

まずは計算尺のおいたちを調べてみた。

日本に最初に計算尺が入ってきたのは1894年(明治27)で、フランスのマネーム計算尺と呼ばれる

もので、留学生が持ち帰ったものらしい。

そして日本でもこの便利なものを竹のものさしで作って欲しいと当時17歳の「逸見次郎」という人

に依頼があった。(東京神田生まれ 当時日本一の目盛り工と言われていた)

逸見(へんみ)氏は辺見マリの歌う「経験」のように『あんっ、やーめてぇ♪愛してないなら』と

言ったかどうか定かじゃないが、一徹な職人気質の人だったらしく、満足のいく和製計算尺を特許庁に

出願したもは1909年(明治42)のことだった。逸見31歳。

 

その後、第一次世界大戦の頃、それまで世界標準だったドイツが計算尺の生産を止めたらしい。

逸見は星のフラメンコの西郷輝彦と結婚し、、、(←ちゃいまんねん)1933年に逸見製作所を設立し

世界を相手に事業を拡大した。

 

1939年 第2次世界大戦中、戦艦大和の大砲用計算尺も逸見の計算尺で設計されていた。

1940年 平均賃金が20円だった頃で小さい計算尺は5円、なんと大型は20円もしたらしい。

     やっぱり今のパソコンのような存在だにゃ〜。

1953年 逸見治郎 亡くなる

1960年頃 ヘンミ計算尺は、年間100万本の出荷量を誇る。

1965年 ヘンミ計算尺、日本の計算尺の98%、世界の70%のシェアを占める

 

そして、ちょうどこの頃1964年(昭和39)早川電気(現シャープ)がトランジスターを用いた

世界初の電子卓上計算機を世の中に送り出し、1972年には「答え1発〜」で有名なカシオミニ

が出現することになる。当時、電卓は4〜5万円くらいしていた時代だったけど、このカシオミニは

12,800円という画期的な価格でしかも、手のひらサイズだったので、600万台も売れてしまったのだ。

これを皮切りに電卓はあっというまに普及していったことはここで記す必要もないだろう。

最近では名刺サイズのソーラー式のものが100円ショップで売っているもんね。

 

・・・ということで仮説としては、電卓が登場し、普及し初めた1970年代半ば頃、計算尺は

絶滅の方向にあったといえよう。

さて、本当に現在では製造・販売していないのだろうか?

はすぴーは勤務先が新宿なので、京王デパートの文具コーナーに立ち寄って店員に聞いてみた。

 

はすぴー:あのぅ〜計算尺を探しているんですが、、、ありますか?

店員:えっ、計算尺といいますとあの計算尺のことでしょうか?

はすぴー:はい、あの計算尺のことなんですぅ。(急に恥ずかしくなってきた)

店員:残念ながら現在では取り扱ってございません。

はすぴー:(あっ、この目はオイラのことを怪しいやつだと思っているな。

      きっとこの後、今の客ねぇ・・・と店員同士でバカにするんだろうな。

      「現在では」と強調することにないだろうに、、、ちぇっ)

などと被害者意識に陥ったところで、今度はインターネットで検索してあたりをつけてから

行動することにした。

 

まず驚いたのは計算尺の種類の多さだ。

キューフェル計算尺

全金属製計算尺

ファーバー加減計算機付き計算尺

フーラー計算尺

オーチス計算尺

ロガ円筒式大型計算尺

渦巻円盤式計算尺

円盤式計算尺

ヘンミ計算尺

 

ふむふむ、こんなにも種類があったのか、、、最後のヘンミというやつが逸見さんが考案した

ものだろう、、、と思いつつ、さらに検索を続けると

ヘンミ計算尺(株)HEMMI SLIDE RULE Co.Ltd というサイトを発見した。

おっおっ、、これはそのものズバリな社名の会社ではないか。

もしやまだ製造しているのではないかと期待しながら、ページをめくっていくと次のようにあった。

 

【事業内容】 

 ・営業第二部

  (1)流体制御機器部門(圧力制御バルブ)

  (2)マスフローコントローラ&マスフローメータ

  (3)分析用サンプリング装置、ガス供給装置、人工呼吸器等

  (4)ガス制御システム&メカトロ二クス部門

  (5)計算尺(製造中止:在庫販売のみ)

 

つまりこの会社は当社は、独自に開発した計算尺で得た精密技術を生かして、現在は

電子部品(プリント回路基板)、流体制御機器及びシステム、半導体製造用ロボット等の

製品を行っていて、計算尺は製造しておらず、在庫のみ販売しているということなのだ。

 

HPの電話番号をたよりに電話してみた。

電話の人:はい、ヘンミ計算尺

はすぴー:(けっ、無愛想なおっちゃんなや)あのぅ〜、計算尺は1本でも売ってくれる

     のでしょうか?

電話の人:今ね、担当の人がいないからわかんねぇ〜な

はすぴー:デパートとかで市販されていないんでしょうか?

電話の人:デパートじゃ売っていないだろうね。お客さん、東京の人?

はすぴー:はい

電話の人:だったら、銀座の伊東屋さんにおいてあるよ

はすぴー:あっ、そうですか。伊東屋なら知っています。ところでいつから製造しなくなったん

     ですか?

電話の人:んーー、そうだな。。。昭和40年代の終わりくらいだったかな、、、

 

 

・・・ということで、銀座の伊東屋(文房具の百貨店?)に在庫品がおいてあることがわかったので

今度はそちらに問合せしたら、8階売り場のTさんという女性が対応してくれた。

 

Tさん:お尋ねの御品物は銀座・本店8階売場にて取扱い致しております。

はすぴー:(この声は絶対に美人だ)でへへ、8階で売っているんですね。

Tさん:商品自体は製造中止になっており品薄の為、御希望のものがないかもしれませんので

    もし必要であればあらかじめカタログを貼って送らさせていただきますが。

はすぴー:(おっおっ、そこまでサービスしてくれちゃうの。やっぱり美人だ)

    でれでれ、じゃぁ、今から自宅の住所をいいますので、カタログを送ってくれますか。

 

・・・ということで、2日後には美人のTさんからカタログが届いた。

在庫として販売している商品にはシールを貼ってくれて、取り扱っていないものには

マジックで「×」をつけてある。やはり美人で知的な人に違いないっ!

 

・・・ということで、今、はすぴーの手元にはヘンミ計算尺株式会社の計算尺カタログがある。

カタログには「技術者用」「一般用」「教授用」「生徒用」の区分があり、全部で28種類あり、

現在、取り扱っているのはそのうち、5種類であった。

28種類すべてに解説がついてあり、素人のはすぴーにはちんぷんかんぷんであるが、

こんな具合だ。

・・・(中略)三角関数を含む乗除計算、複素数、ベクトル計算を容易にし、D1尺併用によって

正弦比例計算も可能。

・・・(中略)土木測量と水理学をミックスした特殊目盛りを備え、スタジヤ測量、曲線布設、

マイニング流速公式などが計算できます。

ひぇ〜ここまで転記しただけで知恵熱がでそうだ。

値段は最も高価なタイプで教授用の25,000円で、安いものは生徒用の1,200円であった。

3,000円〜7,000円の価格のものが普通タイプと言ってよいだろう。

 

またインターネットで検索したら、パソコン用デジタル式の計算尺のソフトウェアを発見し

ダウンロードしてみたが、そもそも使い方がわからないことに気付いて苦笑してしまった。 

以上、調査の結果、計算尺は1975年頃に電卓の登場によって製造を中止し現在では

製造元のヘンミ計算尺株式会社で在庫のみの販売、そして株式会社 伊東屋の本店8階で

一部の商品を取り扱っていることが判明したが、ほとんど「絶滅寸前」の商品であると

言ってもさしつかえないだろう。

 

ヘンミ計算尺株式会社

本社

東京都千代田区神田駿河台4−4

TEL 03-3253-2631

FAX 03-3253-2633

創立:明治28年4月15日

資本金:11,250万円

従業員:130名

 

【参考】

東京理科大学近代科学資料館

(原稿:2000/11/28)


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